はじめに
特許法2条1項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないとされています。
そして、以下の最高裁判決においては、この「発明」についてもう少し深い説明を行っています。
最高裁判決 S52.10.13(S49(行ツ)107) 獣医用組成物事件
特許法(以下「法」という。)二条一項は、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め、「発明」は技術的思想、すなわち技術に関する思想でなければならないとしているが、特許制度の趣旨に照らして考えれば、その技術内容は、当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当であり、技術内容が右の程度にまで構成されていないものは、発明として未完成のものであつて、法二条一項にいう「発明」とはいえないものといわなければならない(当裁判所昭和三九年(行ツ)第九二号同四四年一月二八日第三小法廷判決・民集二三巻一号五四頁参照)。ところで、法四九条一号は、特許出願にかかる発明(以下「出願の発明」という。)が法二九条の規定により特許をすることができないものであることを特許出願の拒絶理由とし、法二九条は、その一項柱書において、出願の発明が「産業上利用することができる発明」であることを特許要件の一つとしているが、そこにいう「発明」は法二条一項にいう「発明」の意義に理解すべきものであるから、出願の発明が発明として未完成のものである場合、法二九条一項柱書にいう「発明」にあたらないことを理由として特許出願について拒絶をすることは、もとより、法の当然に予定し、また、要請するところというべきである。
この最高裁判決においては、自然法則を利用した発明であるためには、当業者(当該の技術分野における通常の知識を有する者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないとされています。
そして、そうでないものは、発明としては未完成であって、29条1項柱書にいう発明とはいえないと判断されます。
更に、出願の発明が発明として未完成のものである場合、29条1項柱書にいう発明にあたらないことを理由として特許出願について拒絶されると述べています。
次に、別の最高裁判決を見てみましょう。
最高裁判決 H12.2.29(H10(行ツ)19) 黄桃の育種増殖法事件
発明は、自然法則の利用に基礎付けられた一定の技術に関する創作的な思想であるが、その創作された技術内容は、その技術分野における通常の知識経験を持つ者であれば何人でもこれを反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならないから、その技術内容がこの程度に構成されていないものは、発明としては未完成のものであって、特許法2条1項にいう「発明」とはいえない。したがって、同条にいう「自然法則を利用した」発明であるためには、当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要である。そして、この反復可能性は、「植物の新品種を育種し増殖する方法」に係る発明の育種過程に関しては、その特性にかんがみ、科学的にその植物を再現することが当業者において可能であれば足り、その確率が高いことを要しないものと解するのが相当である。けだし、右発明においては、新品種が育種されれば、その後は従来用いられている増殖方法により再生産することができるのであって、確率が低くても新品種の育種が可能であれば、当該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからである。
この最高裁判決においては、自然法則を利用した発明であるためには、当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要であるとしています。
そして、この反復可能性は、科学的に再現することが当業者において可能であれば足り、その確率が高いことを要しないとされ、確率が低くても発明の実施が可能であれば、当該発明の目的とする技術効果を挙げることができるからとしています。
おわりに
特許法上の発明となるには、当業者による反復可能性があることが必要になります。
確率が低くても大丈夫ですが、反復して実施できないと特許を受けることができないことになります。