※この写真はフリー素材で、今回の事件の対象製品とは異なります。
特許侵害訴訟に負けて企業が倒産したとのニュースがありました。
対象企業は、美容用品などの会社で、
侵害訴訟の相手も同じ業界ですね。
2020年2月28日の知財高裁大合議判決(知財高裁大合議R2.2.28(H31(ネ)10003) 美容器事件)で、4億4千万円の賠償命令が出され、営業販売成績も振るわず、結局、倒産になってしまいました。
このようなことは中小企業では十分あり得るリスクで、訴えられたら対応するという姿勢では、今回のように倒産まで追い込まれる可能性も非常に高く、そういった最悪の事態を避けるためにも、普段から備えをしておく必要があると思います。
具体的な対策検討については、やはりその道のプロである弁護士・弁理士にご相談いただくことが長期的にはコストパフォーマンスがよく、賢明な方策かと思います。
ところで、この事件は、知財高裁の大合議判決ということで、法学的にも意味のある判決となっています。
判決文の主要な部分は以下になります。
特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、特許法102条1項本文において、侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし、同項ただし書において、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。
「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りるところ、原告製品は、本件発明2の実施品であるから、「侵害行為がなければ販売することができた物」に当たることは明らかである。
特許法102条1項所定の「単位数量当たりの利益の額」は、特許権者等の製品の売上高から、特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
特許法102条1項の「実施の能力」は、潜在的な能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり、その主張立証責任は特許権者側にある。
特許法102条1項ただし書は、侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以下「販売できない事情」という。)があるときは、販売できない事情に相当する数量に応じた額を控除するものとすると規定しており、侵害者が、販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には、同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。
「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当する。
特許法102条1項の、損害賠償請求における損害額の算定に関する論点はとても重要かつ難しい問題であり、これまでの多数の議論が行われてきましたが、今回の判決においても重要な判断が下されました。
今後、この判決内容が規範となって、続く他の判決にも影響が出るかどうかは今後留意していく必要があります。