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【共同発明】知財高裁判決 H28.7.28(H27(行ケ)10191) 半導体装置事件

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はじめに

 

特許法上では、発明の発明者には一人しかなれないということはなく、複数人が同じ発明の発明者になることができます。

 

ただし、それには条件があります。

 

その条件は、特許法上には明記されていないため、問題になります。

 

その条件について判断した判決を参考にすることになります。

 

知財高裁判決 H28.7.28(H27(行ケ)10191) 半導体装置事件

 

特許法2条1項は,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうと規定しているところ,特許制度の趣旨に照らすと,その技術内容は,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決・民集第31巻6号805頁)。そして,発明者となるためには,もとより一人の者が全ての過程に関与することを要するものではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,上記発明の意義に鑑みれば,共同発明者となるためには,当該発明に係る課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,一体的・連続的な協力関係の下に,それぞれが重要な貢献をなすことを要すると解するのが相当である。

 

この判決では、まず、特許法上の発明について説明しています。

 

すなわち、発明は、その技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることが必要としています。

 

その上で、一人ではなく共同でも発明者となることができるとしています。

 

更に、共同発明者となるためには,その発明の課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,一体的・連続的な協力関係の下に,それぞれが重要な貢献をなすことが必要としています。

 

すなわち、着想と具体化という主要な二段階の過程において、協力して重要な貢献をした者が共同発明者になれるということです。

 

過去に東京地裁において参考になるような同様の判決が出ているので、それも見ておきましょう。

 

東京地裁判決 H18.9.12(H16(ワ)26283) JSR事件

 

真の共同発明者といえるためには、当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要である。したがって、①発明者に対して一般的管理をしたにすぎない者(単なる管理者)、例えば、具体的着想を示さずに、単に通常の研究テーマを与えたり、発明の過程において単に一般的な指導を与えたり、課題の解決のための抽象的助言を与えたにすぎない者、②発明者の指示に従い、補助したにすぎない者(単なる補助者)、例えば、単にデータをまとめたり、文書を作成したり、実験を行ったにすぎない者、③発明者による発明の完成を援助したにすぎない者(単なる後援者)、例えば、発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えたにすぎない者等は、技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから、共同発明者ということはできないものと解される。

 

ここでも、やはり、現実に加担することが必要とされ、テーマを与えたり指導・助言するだけの単なる管理者や、発明者の手足になって動くだけの単なる補助者、援助だけした単なる後援者などは共同発明者にはなれないとしています。

 

東京地裁判決 H14.8.27(H13(ワ)7196) 細粒核事件

 

発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け、①提供した着想が新しい場合には、着想(提供)者は発明者であり、②新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者である。

 

この判決では、着想の提供と具体化の二段階の過程において、これまでにない新たなことをやった者が共同発明者になれるとしています。

 

おわりに

 

共同発明者になるかどうかの線引きは実際には判断が難しいケースが多いので、発明に取り組んでいる段階で、事前に、関係者間で協議(可能ならば契約締結や覚書作成)しておくことがその後の紛争を回避できる簡便な方法かと思います。