はじめに
医薬品については安全性確保のための審査が行われますが、その期間は長期になることが多いです。
この安全審査が完了しない限り、この医薬品に関する発明について、たとえ特許権が成立していても特許発明を実施できないことになります。
そうすると、実質上、特許権の存続期間が短縮されてしまうことになるため、特許法では、5年を限度に、特許権の存続期間を延長する制度が導入されています。
本件判決については、存続期間延長の対象となった特許発明に関する医薬品と異なる部分が存する物が実質同一として扱われるかどうかの判断基準が示されました。
知財高裁大合議 H29.1.20(H28(ネ)10046) オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤事件
存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及び,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
まず、政令処分で定められた条件によって特定された医薬品と実質同一なものも特許権の存続期間の延長の対象に含まれるとしています。
差分が僅かなものであれば、実質同一とみなされます。
医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは,特許発明の内容に基づき,その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。
この差分の判断は、医薬業界の人が技術的特徴と作用効果が同一と判断するかどうかに基づいて行われます。
上記の限定した場合において,①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,③政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合は,対象製品と政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」の間の差異は僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。
ここで、4つの判断基準が示されます。
すなわち、①周知・慣用技術に基づく成分の付加、転換等、②技術的特徴及び作用効果の同一性、③数量的に意味のない程度の差異しかない場合、④「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合、になります。
この場合、差異は僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれることになります。
延長登録出願の手続において,延長登録された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には,特許法68条の2の実質同一が認められることはない。
特段の事情がある場合には上記は認められないことになります。
おわりに
医薬品も開発後、長期間が経てば、実際の製品においては、その時の周知・慣用技術に基づいていくらか差分が出てくることがあります。
今回の判決では、そのような状況でも、特許権の効力が及ぶ範囲が示されたことになります。
後発の実施者については十分留意しておく必要があります。